悪魔の辞典

原題
The Devil's Dictionary
作者
アンブローズ・ビアス
作者(英語表記)
Ambrose Bierce
翻訳者
枯葉

R

RABBLE [愚民]

n. 共和政体では、主権という、不正選挙によって調節される権威をふるうひとたち。愚民は、あのアラビアの寓話にでてくる、聖なるシムルグによく似ている――どうしようもないという状態に関して全知全能だという点で。(この単語は貴族語で、我々の言語にはこれに厳密に当てはまるものがない。が、意味的には、まあおおよそ「空翔ぶ豚」というのに近いかもしれない。)

RACK [拷問台・ラック]

n. 以前は、誤った信仰を抱くひとを説得し、真の教えを受け入れさせるのに用いられた、問題の多い器具のこと。不信心者を転向させるという使命にはまったく成果をあげることができなかったので、いまは一般的で軽いもの想いをかけられるだけである。

RADICALISM [急進主義]

n. 今日のことに導入された明日の保守主義。

RADIUM [ラジウム]

n. 熱を発し、科学者が愚者たる所以のあの器官を刺激する無機物。

RAILROAD [鉄道]

n. 多数の機械的装置の主用部分であり、我々が今いる場所から今いる場所と変わりばえしない場所へと遁走することを可能にする。鉄道が持つこの効果は、楽天家に非常に好まれている。なぜならそれは、長大な遠征による長距離間移動を可能にするからだ。

RAMSHACKLE [ぐらぐらする]

adj. ある種の建築物、またの名を標準アメリカ式として知られる建築物の状態に関係がある。合衆国の公共施設の多くはラムシャクル様式をとっている。もっとも、我が国の初期に活躍した建築家はアイロニック様式を好んだものだが。最近行われたワシントンのホワイトハウス増築はテオ=ドリック式であり、これはドリアン様式という宗教的な状態にある。この壮麗極まりない建物に関しては、煉瓦1つにつき100ドルのコストがかかっている。

RANK [地位]

n. 人間の価値を計る相対的位相。

He held at court a rank so high
That other noblemen asked why.
"Because," 'twas answered, "others lack
His skill to scratch the royal back."
Aramis Jukes
RANSOM [身代金・賠償金・贖罪金の支払い]

n. 売り手のものでもなければ、買い手のものになるわけでもないものを購入すること。もっとも無益な投資。

RAPACITY [強奪]

n. 産業なき摂理。力の繁栄。

RAREBIT [ウェルシュラビット*1]

n. Welsh rabit。ユーモアを解さない言語圏では、それはウサギではないと指摘される。この手の人々に対しては、toad-in-a-hole *2が本物の蛙でないことや、riz-de-veau a la financiere* が銀行の受付嬢のレシピに従って用意された子牛の微笑ではないことが、生真面目に説明されたりするのかもしれない。

*1チーズトーストの一種。

*2衣をつけて焼いたソーセージ。

*3不明。字義通りに訳せば「子牛のライス詰め財政風」かな。

RASCAL [悪党]

n. バカを別の角度から見た場合。

RASCALITY [狼藉]

n. 攻撃的な愚行。曇った知性がなす行動。

RASH [無分別な]

adj. 我々のアドバイスの価値を認めない。

"Now lay your bet with mine, nor let
  These gamblers take your cash."
"Nay, this child makes no bet." "Great snakes!
  How can you be so rash?"
Bootle P. Gish
RATIONAL [合理的な]

adj. 欺瞞のない。ただし、ここでいう欺瞞には、観察、経験思索は含まれない。

RATTLESNAKE [ガラガラヘビ]

n. 我らがうつぶせの同胞、Homo ventrambulans

RAZOR [剃刀]

n. キリスト教徒が美容のために使い、モンゴル人が自分から綱を引っ張りだすために使い、アフリカ系アメリカ人が自分の価値を主張するのに使う道具。

REACH [リーチ]

n. 人間の手が届く範囲。この範囲では、供給したがる傾向を直接的に満足させる可能性(と蓋然性)がある。

This is a truth, as old as the hills,
  That life and experience teach:
The poor man suffers that keenest of ills,
  An impediment of his reach.
G.J.
READING [読み物]

n. 読む対象の総称。概して我が国では、インディアン物語、「方言」による短編小説、スラングによるユーモアなどで成り立っている。

We know by one's reading
His learning and breeding;
By what draws his laughter
We know his Hereafter.
Read nothing, laugh never --
The Sphinx was less clever!
Jupiter Muke
REALISM [リアリズム]

n. の目にうつるままに自然を説明するという芸術。モグラが描く風景画、あるいは尺取虫が書く物語に満ち満ちている魅力。

REALITY [リアリティ]

n. 狂った哲学者の夢。幻覚を成分検査したとしたら灰吹き皿に残るもの。真空の核。

REALLY [本当は]

adv. 見た感じ。

REAR [後背]

n. アメリカの軍事的問題のことで、議会に最も近いところにいる軍隊の露出した部分のこと。(これもよく分からんなあ。)

REASON [推論する]

v.i. 確率をはかる欲望の天秤に重りを加えること。

REASON [理由]

n. ひがみ。(propensitate of prejudice; propensitate が語義不明。)

REASONABLE [道理をわきまえた]

adj. 我々の主張に感化されうる。説得・制止・言い逃れに聞く耳を持つ。

REBEL [反逆者]

n. うまく確立されなかった新たな悪政の擁護者。

RECOLLECT [回想する]

v. 尾ひれつきで思い出すこと。

RECONCILIATION [和解]

n. 敵意の停止。死骸を掘り出すための武装停戦

RECONSIDER [再考する]

v. すでになされた決断を正当化するものを探すこと。

RECOUNT [(票の)数え直し]

n. アメリカ政治では、鉛をしこんだサイコロを、プレイヤーの求めに応じてもうひとふりすること。

RECREATION [レクリエーション]

n. 一般的な疲れを取り除く独特な種類の落胆。

RECRUIT [新兵]

n. 軍服を着ていることから市民と見分けられ、歩調から軍人と見分けられる人物。

Fresh from the farm or factory or street,
His marching, in pursuit or in retreat,
  Were an impressive martial spectacle
Except for two impediments -- his feet.
Thompson Johnson
RECTOR [教区主管者]

n. 英国国教会における、教区的三位一体の第一者。他二者は副教区主管者 (Curate) と教区主管者代理(Vicar)。

REDEMPTION [贖罪]

n. 神に対する罪を犯した罪人が、その神を殺害することによって罪の罰から解放されること。贖罪の教義は我々の聖なる教えの根本にあるミステリーであり、それを信じるものは滅びることなく、ただそれを理解しようと務めるための久遠の生命を得ることになる。

We must awake Man's spirit from his sin,
  And take some special measure for redeeming it;
Though hard indeed the task to get it in
  Among the angels any way but teaming it,
  Or purify it otherwise than steaming it.
I'm awkward at Redemption -- a beginner:
My method is to crucify the sinner.
Golgo Brone
REDRESS [賠償]

n. 満足を伴わないままなされる償い

アングロ=サクソン人の間では、自分が王から不正に取り扱われていると考えた臣民は、その被害を示した上で、真鍮でできた王の彫像を鞭打つことが許されていた。その鞭が、後になって自分の背中に向けられるわけだが。後者の儀式は一般の執行人の手で執り行われ、それが原告の鞭選びに節度を加えることになったのである。

RED-SKIN [赤肌]

n. 北米インディアン。ただし、その皮膚は赤くない――少なくとも外見的には。

REDUNDANT [余分な]

adj. 十二分の。不必要な。de trop

The Sultan said:"There's evidence abundant
To prove this unbelieving dog redundant."
To whom the Grand Vizier, with mien impressive,
Replied:"His head, at least, appears excessive."
Habeeb Suleiman
Mr. Debs is a redundant citizen.
Theodore Roosevelt
REFERENDUM [国民投票制度]

n. 広く投票を行うことで世論の不一致を立法府に分からせるため発議される法制。

REFLECTION [反省]

n. 精神的活動のひとつで、これにより我々は、二度とは再現されない昨日の出来事に関する明白な見解を得る。

REFORM [改革する]

v. 改革に反対する改革者を大まかなところで満足させるものごと。

REFUGE [避難所]

n. 危険からの保護を請け負うものすべて。モーゼとヨシュアは、避難所として6つの都市――ベゼル、ゴラン、ラモス、カデシュ、シェケム、ヘブロン――を規定し、殺人を犯して故人の親戚に追われるものがそこまで逃走することを可能とした。この感嘆すべき方策は、殺人犯には健康的な運動を、追跡者たちには追跡の喜びを与えたのだ。それにより死者の魂は、初期のギリシャの送葬競技にも似た見世物を行うことで適切に弔われたのである。

REFUSAL [謝絶]

n. 欲するものを拒むこと。たとえば、金持ちでハンサムな求婚者にとっては、時代遅れの未婚女性が結婚のために用いる手。大企業にとっての市議会議員によって与えられる特権。国王にとっての僧侶から与えられる免罪、などなど。種々の謝絶は、そのファイナリティを目安にして次のようにレベル分けされる:絶対的謝絶、条件的謝絶、試験的謝絶、女性的謝絶。最後のものを承諾的謝絶と呼ぶ詭弁家もいる。

REGALIA [王権の表章]

n. insignia とは区別される、以下にあげるような組織が用いた宝石や衣装。Knights of Adam; Visionaries of Detectable Bosh; the Ancient Order of Modern Troglodytes; the League of Holy Humbug; the Golden Phalanx of Phalangers; the Genteel Society of Expurgated Hoodlums; the Mystic Alliances of Georgeous Regalians; Knights and Ladies of the Yellow Dog; the Oriental Order of Sons of the West; the Blatherhood of Insufferable Stuff; Warriors of the Long Bow; Guardians of the Great Horn Spoon; the Band of Brutes; the Impenitent Order of Wife-Beaters; the Sublime Legion of Flamboyant Conspicuants; Worshipers at the Electroplated Shrine; Shining Inaccessibles; Fee-Faw-Fummers of the inimitable Grip; Jannissaries of the Broad-Blown Peacock; Plumed Increscencies of the Magic Temple; the Grand Cabal of Able-Bodied Sedentarians; Associated Deities of the Butter Trade; the Garden of Galoots; the Affectionate Fraternity of Men Similarly Warted; the Flashing Astonishers; Ladies of Horror; Cooperative Association for Breaking into the Spotlight; Dukes of Eden; Disciples Militant of the Hidden Faith; Knights-Champions of the Domestic Dog; the Holy Gregarians; the Resolute Optimists; the Ancient Sodality of Inhospitable Hogs; Associated Sovereigns of Mendacity; Dukes-Guardian of the Mystic Cess-Pool; the Society for Prevention of Prevalence; Kings of Drink; Polite Federation of Gents-Consequential; the Mysterious Order of the Undecipherable Scroll; Uniformed Rank of Lousy Cats; Monarchs of Worth and Hunger; Sons of the South Star; Prelates of the Tub-and-Sword.

なにぶん、これらビアスがでっち上げている組織の共通性があんまり見えてないし、ひとつひとつの組織と当時実在する組織との関連性の有無を綿密に調査していくのは、正直言って、あまりにも辛い。よってパスさせてください。

RELIGION [宗教]

n. 「希望」と「恐怖」の間に生まれた、「脳足りん」に「知ることあたわざるもの」の性質を説明してやる息女。

「子よ、あなたは何を信仰しているのですか?」とリームズの大司教は訪ねた。

「すみません、司祭さま」とロシェブリアンは答えた。「私はそれを恥ずかしく思っているのです」

「ではなぜ無神論者にならないのです?」

「まさか! 無神論なんて恥ずべきものですよ」

「そういうことでしたら、プロテスタント*になるのがよろしいでしょう」

* protestant: 原義では「抗議する者」

RELIQUARY [聖遺物箱]

n. 神聖なる物体を納めた器。たとえば、トゥルー・クロスとか、聖人の小肋骨とか、バラムのロバの耳とか、ペテロの懺悔を呼び起こした鶏*の肺、などなど。聖遺物箱は通例金属製で、飛び出してきた中身が時期をわきまえないまま奇跡を起こすのを阻止するために錠が取りつけられている。告知天使の翼から抜け落ちた羽は、かつて、聖ペテロの説教中に逃げ出し、会衆の鼻をくすぐりまわしたために、かれらは目を覚まし、ひとりあたり3回ずつ、大きなくしゃみをした。「聖なる手柄話」の記述によれば、カンタベリー大聖堂の聖具保管係が書斎で聖デニスの首に不意をつかれたことがあったという。首の管理人は厳しい人物であったため、それを叱り付けたところ、それは、教義の実体(body)を探して回っていると釈明したとのことだ。この軽率な行為は教区の逆鱗に触れ、かの不心得な首は公の場で破門を宣告された上にストゥール川に投げ込まれ、そして、ローマから運ばれてきたもうひとつの聖デニスの首に取って代えられたとのことである。

* 「マルコによる福音書」14:66-14:72――使徒ペテロは、キリスト受難の直後、官吏に対し自分がキリストの知己であることを三度にわたって否定した。二度目の鶏の声を聞いたとたん、受難直前のキリストから「おんどりが二度鳴く前に,あなたは三度わたしを否認するだろう」と言われたことを思いだし、激しく泣き悲しんだという。電網聖書参照のこと。

RENOWN [声望]

n. 悪名と高名の間に位置する著名度―― 一方よりも微妙に支持しうるものであり、もう一方とくらべると微妙に鼻持ちならないもの。ときに、これは不親切かつ不躾な手により授与されることがある。

I touched the harp in every key,
    But found no heeding ear;
And then Ithuriel touched me
    With a revealing spear.

Not all my genius, great as 'tis,
    Could urge me out of night.
I felt the faint appulse of his,
    And leapt into the light!
W.J. Candleton
REPARATION [償い]

n. 悪行を原因とし、悪行を行うさいに感じられる満足から差し引かれる、満足。

REPARTEE [得意即妙の受け答え]

n. 反論における用心深い侮辱。暴力に対して良識的な嫌悪を抱きつつ、攻撃に対して強い憧れを抱いている紳士たちが熟達している。論争においては、インディアンの得意戦法。

REPENTANCE [後悔]

n. 「罰」の忠実な付き添いにして支持者。ある程度の改善が見られることで明らかにされるのがふつうだが、その改善は罪の継続とは矛盾しない。

Desirous to avoid the pains of Hell,
You will repent and join the Church, Parnell?
How needless! -- Nick will keep you off the coals
And add you to the woes of other souls.
Jomater Abemy
REPLICA [レプリカ]

n. 芸術作品を、オリジナルの作者の手で再現すること。コピーという、他の芸術家の手で創られるものと区別するためにこう呼ばれる。もし両者が等しい腕前をもつ場合は、レプリカのほうが価値が高い。というのは、目で見たままより、こう見えて欲しいという願望のほうが美しいに決まっているからだ。

REPORTER [事件記者]

n. 真相への道のりを推測し、その結果を言葉の嵐で吹き散らしてしまうもの書き。

"More dear than all my bosom knows, O thou
Whose 'lips are sealed' and will not disavow!"
So sang the blithe reporter-man as grew
Beneath his hand the leg-long "interview."
Barson Maith
REPOSE [安らぐ]

v.i. 煩いの種から身をひくこと。

REPRESENTATIVE [代議士]

n. 国家政治においては、この世の下院の構成員であり、次段階への昇進の希望が見うけられない人物。

REPROBATION [永罰]

n. 神学では、罰として呪われ、不幸にも死すべき定めにある状態。永罰の原理はカルヴァンによって説かれたのだが、かれは涙が出るほど誠実な確信を―― 一部は破滅が予定されているけれども、その他はみな救済されべく運命づけられているのだ――抱いていたせいで、この原理にかれが見出した喜びは、多少損なわれたのであった。

REPUBLIC [共和国・共和政体]

n. 統治者と被統治者が同じ国のこと。よって、そこでの権力には服従を選択肢として強制することしか許されていない。共和政体での公共の秩序は、弱体化傾向すらある従順という習慣にかかっている。この習慣は、ほんとうの意味で統治されていた、従順でないと困るような先祖たちから遺伝してきたものだ。共和政体の種類は、それのもとになっている専制君主制と、それがこれから向かおうとしている無政府主義との間にあるグラデーションの数だけ存在する。

REQUIEM [レクイエム]

n. 風はお気に入りの墓の上で歌うということをマイナーな詩人が保証してくれる死者のためのミサ。たまに、変わった趣向でもてなそうとする詩人が挽歌を歌う。

RESIDENT [住んでいる]

adj. 出てゆくことができない。

RESIGN [辞職する]

v.t. 得のある地位を捨てること。得を捨て、それよりも大きな得を得ようとすること。

'Twas rumored Leonard Wood had signed
  A true renunciation
Of title, rank and every kind
  Of military station --
  Each honorable station.

By his example fired -- inclined
  To noble emulation,
The country humbly was resigned
  To Leonard's resignation --
  His Christian resignation.
Politian Greame
RESOLUTE [固く決意した]

adj. 我々が是認したことについて頑固な

RESPECTABILITY [名士]

n. 禿げ頭と銀行口座が結びついた結果。

RESPIRATOR [マスク]

n. 口と鼻を覆う、ロンドン住民ご用達の装置。これにより、目に見えるものをすべて肺からシャットアウトする。

RESPITE [猶予]

n. 刑の宣告を受けた殺し屋に対する敵意の中断で、執行人に、弁護士が殺人を行わずともよいという裁定を下すことを可能にする。不愉快な期待の連続性を断ち切るものすべて。

Altgeld upon his incandescend bed
Lay, an attendant demon at his head.

"O cruel cook, pray grant me some relief --
Some respite from the roast, however brief."

"Remember how on earth I pardoned all
Your friends in Illinois when held in thrall."

"Unhappy soul! for that alone you squirm
O'er fire unquenched, a never-dying worm.

"Yet, for I pity your uneasy state,
Your doom I'll mollify and pains abate.

"Naught, for a season, shall your comfort mar,
Not even the memory of who you are."

Throughout eternal space dread silence fell;
Heaven trembled as Compassion entered Hell.

"As long, sweet demon, let my respite be
As, governing down here, I'd respite thee."

"As long, poor soul, as any of the pack
You thrust from jail consumed in getting back."

A genial chill affected Altgeld's hide
While they were turning him on t'other side.
Joel Spate Woop
RESPLENDENT [光り輝く]

adj. 下宿で自己との格闘に専念する、あるいは、パレードの1ユニットとしての「事物計画」の成り行きに確信を持つ、質素なアメリカ人に似た。

大天使の軍団は、金糸の刺繍が入ったビロードの衣装をまとってじつに光り輝いていたがゆえに、かれらの主は、かれらを見分けることがほとんどできなかったのである。
"Chronicles of the Classes"
RESPOND [応じる]

v.i. 返事すること。あるいはその他の方法で、ハーバート・スペンサーが「外面的共在」と呼んでいるものへの関心をかきたてられたことを公表すること。たとえば、サタンがあの天使の槍の命中に応じて、イヴの耳元に「ヒキガエルのようにうずくまった」ように。損害賠償に応じる、とは原告の弁護士の収入に寄与しながら、ついでに、原告を満足させること。

RESPONSIBILITY [責任]

n. 取り外し可能な重荷のことで、たやすく神・天命・地運・運勢・隣人の肩に積みかえることができる。占星術はなやかりし頃は、習慣的に星に転嫁された。

Alas, things ain't what we should see
If Eve had let that apple be;
And many a feller which had ought
To set with monarchses of thought,
Or play some rosy little game
With battle-chaps on fields of fame,
Is downed by his unlucky star
And hollers:"Peanuts! -- here you are!"
"The Sturdy Beggar"
RESTITUTIONS [返却・賠償]

n.pl. 寄贈なり遺贈なりによって大学や公共図書館を設立したり補強したりすること。

RESTITUTOR [賠償人]

n. 恩人。慈善家。

RETALIATION [報復]

n. 法の御殿の建立に使われている天然の岩。

RETRIBUTION [天罰]

n. 正しい者にも、そして、かれらを追いたてることで避難所を確保することを怠ったような正しくなかった者にも、わけへだてなく降り注ぐ炎の雨。

下に挙げるくだりはガッサラスカ・ジェイプ神父から某皇帝に宛てられたものだが、この中でかの尊ばれるべき詩人は、天罰のさなか、それに面と向かうべく踵を返すことの愚かさに対する所感をほのめかしているように思われる:

What, what! Dom Pedro, you desire to go
  Back to Brazil to end your days in quiet?
Why, what assurance have you 'twould be so?
  'Tis not so long since you were in a riot,
  And your dear subjects showed a will to fly at
Your throat and shake you like a rat. You know
That empires are ungrateful; are you certain
Republics are less handy to get hurt in?
REVEILLE [起床ラッパ]

n. 兵士たちが見ている戦場の夢を破り、その青い鼻を数えさせろと通知する合図。アメリカ軍では 、天才的にも "rev-e-lee" と呼ばれており、この発音のために、我らが同国人たちは自らの命・不運・神聖不可侵の不名誉を保証されているのだ。

REVELATION [黙示録]

n. 使徒ヨハネによる有名な本。その中でかれは、自分が知っていることをすべて伏せている。黙示は解説者の手で行われるものなのだけれども、かれらはなんにも知りやしない。

REVERENCE [崇拝]

n. 人間が神に対するような、が人間に対するような崇高な態度のこと。

REVIEW [批評する]

v.t.

To set your wisdom (holding not a doubt of it,
  Although in truth there's neither bone nor skin to it)
At work upon a book, and so read out of it
  The qualities that you have first read into it.
REVOLUTION [革命]

n. 政治では、失政という形態への急転換。アメリカの歴史を鑑みて具体的に言えば、アメリカ風内閣体制がイギリス風内閣体制に取って代わったことを指す。これにより、人々の福利と幸福とは目一杯半インチほど前進したのであった。革命には通例大量の流血が伴うが、それに見合う価値はあるとされる――という評価は、運良く己の血を流さずに済んだ受益者が行うものではあるのだが。フランス革命は、今日の社会主義者にとって計りしれない価値を持っている。社会主義者がフランス革命の骨を踊らせるべく紐を引くとき、その骨の身動きは、法と秩序を助成したと思われる血まみれの暴君に表現しがたい恐怖を感じさせるものだから。

RHADOMANCER [棒占い師]

n. 感知ロッドを使って貴金属を探り当てるひと――バカポケットから。

RIBALDRY [雑言]

n. 他人から投げかけられるあらさがしめいた言葉

RIBROASTER [?]

n. 当人から他人向けられた非難を表す言葉。この単語は古雅なものであり、ジョルジアス・コアジャスターという、15世紀のもっとも気難しいもの書き――実のところ、「拙速学院」の設立者と一般に見なされている――も使用していたとさえ言われる。

RICE-WATER [重湯]

n. 多くの通俗作家・詩人たちが、想像力に制限をくわえるため、そして良心に麻酔をかけるため、密かに用いる神秘的な飲み物。聞くところによると、鎮痛・誘眠効果が高く、霧の夜にディスマル沼の魔女たちが醸造するのだそうな。

RICH [豊かな]

adj. 信任を受けて、怠け者・無能者・浪費家・妬み屋・不運な連中の財産の経理に従事している。これは下層社会での見解であり、そのもっとも論理的な発展と単刀直入な支持は、この社会に属する労働組合の発見になる。中流社会の住民にとって、この単語は善良かつ賢明なという意味を持つ。

RICHES [富]

n.pl.

「こちらは私の最愛の息子であり、私はかれのことをたいそう喜ばしく思っております」という意味をもつ天の恵み。
ジョン・D・ロックフェラー*

*John Davison Rockfeller [1839-1937] ロックフェラー財団の創始者。

労働と美徳の報酬。
J・P・モーガン*

*John Pierpont Margan [1837-1913] モーガン財閥の始祖。

あるひとの両手にたくさんのものがあることの謂。
ユージン・デブス*

*Eugene Debs [1855-1926] 労働運動家。社会民主党の創始者

これだけすばらしい定義がありますもの、閃きのよい辞書編纂者たるわたくしめから付け加える価値のあるものなどまったくないように思われますが。

RIDICULE [嘲弄]

n. 相手が、本人とは違って、人格的権威を欠いているのを口で示すための言葉の数々。ときには写実的だったり、滑稽だったり、単にいい気なものにすぎなかったりする。シャフツベリーはこれを真実の試金石だと断言したとして引かれたりする――が、これは嘲弄すべき断定だ。というのも、数多くの真面目くさった誤謬が数世紀にわたって嘲弄を浴びてきてもなおその一般的支持者を目減りさせることがないからだ。たとえばだ、いったい、「子どもの人権」なる主義主張ほど果敢に嘲笑われてきたものが他にあろうか?

n. 「~である」「~する」「~を得る」ための正当な権威。たとえば、王さまである権利とか、隣人を務める権利とか、病を得る権利とか。ちなみに、王さまである権利はかつて神の意志から直接与えられるものだとあまねく信じられていた。そしていまなお、民主主義の洗礼を受けていない partibus infidelium ではそのように主張されることがある。たとえば以下にあげる、アベデネゴ・ビンク卿のよく知られたくだりで示されるように:

  By what right, then, do royal rulers rule?
    Whose is the sanction of their state and pow'r?
  He surely were as stubborn as a mule
    Who, God unwilling, could maintain an hour
His uninvited session on the throne, or air
His pride securely in the Presidential chair.

  Whatever it is so by Right Divine;
    Whate'er occurs, God wills it so. Good land!
  It were a wondrous thing if His design
    A fool could baffle or a rogue withstand!
If so, then God, I say (intending no offence)
Is guilty of contributory negligence.
なんであれそれは聖なる権利
何が起きようともそれは神の意志
驚くべきこと もしその意志
  愚者がくじき 悪人が抗いきったなら!
  だったら言わせてもらおう 神は
公平に見ても寄与過失で有罪と
RIGHTEOUSNESS [高潔]

n. かつて、オウク半島の低部に住んでいた人々の間に見出された不屈の美徳。そこから帰国した宣教師たちが、これをヨーロッパ諸国に紹介しようというはかない試みを何度か行っているが、どうやら説明が不完全だったように思われる。こうした怪しい説明の一例が、敬虔なロウズリー司教の唯一現存する説教に見出される。その特徴的な一節をここに引こう:

「さて、高潔さとは単に心持が信心深いというだけにあらず、また宗教戒律を実行することでもなく、法の文言を遵守することでもない。敬虔公正というだけでは不十分なのだ。他人もまた同じようにしていなければならない。そしてこの目的を果たすためには、無理強いこそが適切な方法である。私の不正は誰かの不利益となるであろう、また、誰かの不利益はさらに別の誰かに害をなそう。であればこそ、私が不正を働かないようにするのと同様に、他人が不正を働くのを予防するのも、明白に私の義務である。それゆえ、自分が高潔であろうと望むからには、私は私の隣人を、必要があれば力ずくででも、有害な行いから引き離さねばならぬ。私が、天の助けを借りつつ、自らの身を遠ざけているすべての有害な行いからだ」
RIME [韻]

n. 詩の各行の末尾で揃えられた音のことで、ほとんどがひどい音。詩そのものも、ここが散文との大きな違いなのだが、ほとんどがだるいできばえ。ふつうは(誤りなのだが) "rhyme" と綴られる。

RIMER [韻律詩人]

n. 無関心を寄せられ、不敬意を払われている詩人。

The rimer quenches his unheeded fires,
The sound surceases and the sense expires.
Then the domestic dog, to east and west,
Expounds the passions burning in his breast.
The rising moon o'er that enchanted land
Pauses to hear and yearns to understand.
Mowbray Myles
RIOT [暴動]

n. 罪のない見物人から警官に与えられる大衆娯楽。

R.I.P

requiescat in pace (安らかに眠れ)のぞんざいな省略形で、死者に対する不精な想いを表す。が、博識なドリッジ博士によると、本来、この文字の意味は reductus in pulvis 以上のものではなかったそうな。

RITE [儀式]

n. 宗教的、あるいは準宗教的セレモニー。法典・教示・慣習によって定められており、注意深く搾り出された実直のエッセンシャルオイルが用いられる。

RITUALISM [儀式主義]

n. 神のオランダ風庭園。そこで神は、芝生への立ち入りを禁止する線に制限された自由を闊歩する。

不明。

ROAD [道]

n. 退屈すぎる場所から行く価値のない場所へと通じる細長い地形。

All roads, howsoe'er they diverge, lead to Rome,
Whence, thank the good Lord, at least one leads back home.
Borey the Bald
ROBBER [強盗]

n. 単刀直入な仕事人。

ヴォルテールに関する逸話。ある晩、かれは旅仲間と路傍の宿屋に泊まったことがある。なんだか曰くありげな環境で、食事のあと、かれらは順々に強盗の物語をすることにした。「昔、あるところに国税庁の役人がいた」と言ったきり話を止めてしまったので、ヴォルテールは続きを促された。するとかれは「そういう話だよ」と答えたそうだ。

ROMANCE [ロマンス*]

n. 森羅万象のありように一切の忠誠心をもたないフィクション。小説では、書き手の思考は蓋然性に結びつけられている。飼い馬が杭に結わえられるように。だがロマンスでは、書き手の思考は想像力の全領域を望むままに駈けることができる――自由に、無法に、はみだの手綱だのにとらわれずにだ。小説家とはみじめな生き物なのだ、カーライルならばそう言ったかもしれない――単なるリポーターにすぎない。キャラクターやプロットを育てるのはよいとしても、実際に起こりえなかったことには何ひとつ思いを馳せてはならない。それが完全に嘘の物語だと分かっているにもかかわらず。なぜこのハードな条件を自らに課すのか、そして自ら鍛えた「一歩ごとに伸びゆく鎖をひきずり」まわるのか、それを説明するのに十冊の大著が書かれてもおかしくはないが、それにしても問題についての彼らの無知という闇を照らす蝋燭一本の光にすらならないだろう。偉大な小説というのもあるにはある。というのも、偉大な作家は「その力を費やして」書くものだから。しかしそれでも、世にでたもっとも魅力的なフィクションといえば、段違いで「千夜一夜物語」なのだ。

*恋愛小説にあらず。もともとはラテン語と比べて俗な言葉、ロマンス語、で書かれた小説のことを言うんだけど、ようするに、あんまり学術的でない(よい意味で)空想的な物語の総称。「浪漫主義」はいろんな歴史的経緯が入りこんでくるんであんまり使いたくないんだ。

ROPE [縄]

n. 殺し屋に自分もまた死すべき定めにあることを思い出させるためにある、廃れかかった道具。首に巻きつけられ、その生命が永らえるかぎりその場に残されつづける。ロープは、多くの地域で、その人物の他の部位に取りつけられる、いっそう複雑な電気的装置に取って代わられつつある。そして、これは急速に説教という名の拷問具に仕事を奪われつつある。

ROSTRUM [演壇・船嘴]

n. ラテン語では、鳥の嘴、あるいは船の先端。アメリカでは、公職への立候補者が愚民の英知・美徳・力について説を述べるところ。

ROUNDHEAD [円頂党員]

n. イギリスの清教徒革命期における議会派の構成員――円頂党員と呼ばれるのは、敵対していた王党員が髪を伸ばしていたのに対し、髪を短くしていたからだ。両者の間にはそれとは異なる違いもあったが、髪型こそが争論の根本的な原因であった。王党員は、王という怠惰な人物が首を洗うよりも髪を伸ばした方が便利だと気付いたからこそ王に倣って髪を伸ばしていたのだ。この円頂党員は、大部分が散髪屋や石鹸業者であったため、それを商売の妨げとみなし、そのために王の首はかれらの格別な悲憤の対象とされたのである。相対する両者の末裔の髪型は、いまは同じようなスタイルになっているが、かつての口論中にたきつけられた憎悪の炎は、今日もなお、イギリス的礼節という雪の下にくすぶっている。

RUBBISH [がらくた]

n. 価値のないもの。たとえば、ボレアプラス以南の地域にはびこる部族の学問とか、宗教とか、哲学とか、文学とか、美術とか。(Boreaplas ってどこ? もしや Boreals --「北方寒帯」からの言葉遊び?)

RUIN [滅茶苦茶にする]

v. 破壊する。特に、乙女の美徳についての乙女の信条を破壊する。

RUM [ラム酒]

n. 絶対禁酒主義者から狂気を引出す燃えるようなリキュールの一般名。

RUMOR [噂]

n. 人格抹殺者のお気に入りの武器。

Sharp, irresistible by mail or shield,
  By guard unparried as by flight unstayed,
O serviceable Rumor, let me wield
  Against my enemy no other blade.
His be the terror of a foe unseen,
  His the inutile hand upon the hilt,
And mine the deadly tongue, long, slender, keen,
  Hinting a rumor of some ancient guilt.
So shall I slay the wretch without a blow,
Spare me to celebrate his overthrow,
And nurse my valor for another foe.
Joel Buxter
RUSSIAN [ロシア人]

n. カフカス人の肉体とモンゴル人の魂をもつひと。吐き気をもよおさせるタタール人*

*Tartar Emetic; 普通名詞だと吐酒石という催吐剤のことだけど、ここでは固有名詞になっている。


原文
"The Devil's Dictionary" (1910)
翻訳者
枯葉
ライセンス
クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンス
公開日
2001年7月13日
最終修正日
2003年2月15日
URL
Egoistic Romanticist: http://www1.bbiq.jp/kareha/
特記事項
プロジェクト杉田玄白正式参加テキスト。