青と緑

原題
Blue & Green
作者
ヴァージニア・ウルフ
作者(英語表記)
Virginia Woolf
翻訳者
枯葉

ガラスの尖った指たちは下を向いてぶらさがっている。光がガラスにすべりおち、緑の水たまりを滴らせる。日がな一日中、艶めく十の指が大理石の上に緑を滴らせる。インコたちの羽――その不快な鳴き声――ヤシの尖った葉――ともに緑。緑の針々が陽光にきらめく。だが、固いガラスは大理石の上に滴り、水たまりは砂漠の砂の上に這い、そこにラクダたちは足を踏み入れ、水たまりは大理石の上に沈み、イグサがまわりに茂り、水草が中を泳ぐ。あちらこちらで白い花ざかり、蛙がその上に倒れこむ。夜、かなたに星々があどけなく浮かんでいる。日が落ち、影がマントルピースを覆う緑を拭い去る。荒れる海原。船はこない。波が目的もなく揺れている何もない空の下。夜だ。かの針々が青の染みを滴らせる。緑は消える。

鼻のつぶれた化け物が水面に浮きあがり、大きな鼻の穴から2柱の水柱を立てる。その芯はめらめら炎の青白さ。その水飛沫みずしぶきは青いビーズのふさとなる。その毛皮、黒い防水布に幾重もの青い線。口と鼻の穴をすすぎながら彼は歌う。水のぶん重々しく。青が彼に覆い被さりその両眼の小石を磨く。岸辺に打ち寄せられた彼は寝そべる、のろのろどろどろと流れる青い鱗。そのメタリックブルーが岸辺の錆びた鉄を汚す。その青さは破れた手漕ぎ船の肋材ろくざい。波が転がってゆく青いベルの下。だが、カテドラルは違う。もっと別の、冷たくて、麝香じゃこうを焚き染めたような、聖母のあのヴェールの微かな青。


原文
"Monday or Tuesday" (1921) から Blue & Green
翻訳者
枯葉
ライセンス
クリエイティブ・コモンズ 表示 2.1 日本 ライセンス
公開日
2002年5月23日
最終修正日
-
URL
Egoistic Romanticist: http://www1.bbiq.jp/kareha/
特記事項
プロジェクト杉田玄白正式参加テキスト。